天使と悪魔の記録

 

妊娠中1

女性がいきなり「う゛!」と口を押さえ、
いきなりバタバタと洗面所に向かって走る。
げーっとしたあと、洗面所の鏡の自分に向かって
「もしかしたら…。」と、はっとした顔をする。
病院へ行くとお医者さんが
「三ヶ月ですね。」
と、無表情に告げる。

こんな場面をよくテレビで見ていたので、
私は悪阻というのは三ヶ月くらいから始まるのかと思っていた。
確か、本にもそんなようなことが書いてあったような気がする。
でも、私は一ヶ月(着床期)の時点で具合が悪かった。
眩暈、動機、頭痛。
妊娠がわかってからは、何だか食べ物が口に入らない。
吐くわけではないんだけど、何となく気分が優れない。
まだ2ヶ月なのに。
そんな私の姿を見て夫が、
「まだ、悪阻の時期じゃなんでしょ。精神的なもんなんじゃないの。」
などとぬかしやがった。
ぬぁにぉー!あんたは、妊娠したことあるのかぁー!
頭のてっぺんから怒り爆発!
でも、私の言葉は、そこらじゅうを空回り…。
声に出す気力がない…(;_;)。

原因は、貧血だった。
もともと私は血が薄いほうで、健康値のぎりぎりをキープしている状態だった。

それが妊娠によって健康値をわずかに下回りはじめたらしい。
貧血で具合が悪い→食べられない→さらに貧血が進む。の悪循環だった。
鉄剤を飲み初めていくらか良くなり始めたころに、今度は本格的な悪阻が始まっ
た。

私の悪阻は、いわゆる吐く悪阻ではなかった。とにかく、気分が優れない。
イライラする。頭が痛い…。
+お腹が異常に張る。
産科の先生が張り止めのクスリを出してくださったが副作用が強く、
結局使うことができなかった。
安静にするしかなく、ずっと家にいる→さらに気分が落ち込む。
要するに、暗くて、いつもいらついてる嫌な女だった。
女性ホルモンって暗いんだなあ、と変なことに感心したり。

唯一出かけられるのが、検診のための病院。
不妊の治療を受けていた病院で、
安定期の6ヶ月頃まで続けて診ていただけることになっていたので、
その頃はまだバスを二つ乗り継いで通っていた。
お腹は張るし具合が悪ので、バスの中では必ず空席を見つけて座るようにしてい
た。
ある健診日の帰り、運良く一番前の座席に座ることができた。
次のバス停で、お歳を召した方がたくさん乗り込んできた。
老人の集まりでもあったのかなと思うほどの人数である。
当然座れない方も出てきた。
私は若い(その方達に比べて)。しかもシルバーシートの並びの一番前の座席。
老人たちの視線をビシバシ感じる。
しかも、運の悪いことに私の前に立った方は足腰ぐらぐら&入歯もぐもぐの、
老人中の老人であった。
普段なら快く席を譲っているところだ(本当だよ)。
でも、私は安定期前の妊婦。6年の不妊治療の結果やっと妊娠した妊婦。
お腹は張って痛いし、悪阻バリバリの妊婦なんだよー!
譲れるわけがなーい!
でもお腹もでてないし、それを証明するものが何もない。
そのご老人は入れ歯をバクバクさせながら
「ここはぁあ、老人席じゃないのかぁああ…。」
と、つぶやいている。
(老人席じゃないよー、一般席だよー)私の心の声は、その人に届かない、
うなだれて寝たふりしている私の首筋に、今にも入れ歯が落ちてきそうだ。
「私は妊婦なんです!くるしい治療を6年も続けてやっとでき たんです!」
バス中のお客さんに向かって私は叫びたかった!
でも、その勇気もなく終点まで気の遠くなるほど長い時間(たった10分だったけど)を、
痛い視線と、入れ歯に噛みつかれそうな恐怖を抱いて過ごした。

妊婦バッチを作ろうかと、本気で考えた10分間だった。
これを見ている厚生大臣(あり得るわけないな)!
妊婦バッチを作ってちょーー!!

(C) Copyright 2001 nachi All rights reserved. Update : 2002/09/25 Goto HOME