妊娠6ヶ月目に入り、もう安定期になった。
普通は4ヶ月でもう安定期と言えるのだが、
私はやっとできた子ということもあって、
S先生から「6ヶ月間ではとにかく油断しないで。」
と言われていた。
なんとか6ヶ月を無事に迎え、
少し私自身も安心した。
そろそろ病院を変更しなければならない。
私はS先生を全面的に信頼していたので、
できればS先生に取り上げていただきたかったのだが、
KK病院は婦人科に力を入れることになり、
産科は残念ながら閉鎖になっていた。
個人病院にするか、総合病院にするがS先生とも相談したのだが、
自然妊娠でないこと、身体の不調が長引いていること、
年齢的なことを考え合わせ、総合病院で出産すること決めた。
義母のお友達のご主人様が産婦人科の医師をしておられ、
その方の紹介により国立病院の部長先生を紹介していただいた。
転院の準備もそろい、いよいよS先生最後の受診日となった。
KK病院に通った3年間が思い出され、私は寂しさと、
新しい病院に対する不安でいっぱいだった。
できることなら転院したくない、などと思いながら診察室へ入ると
隣の診察室での会話が聞こえてきた。
「子供ができなくても、もっと別の人生があるから…。」
「ご主人と手とりあって生きて行くのもきっと楽しいと思います。」
先生の声が聞こえてくる。
「ええ、もう気持ちの整理もつきました。」
患者さんらしい声も聞こえてくる。
私は暗たんたる気持ちになった。
私の番が来て、いつものようにドップラー音(赤ちゃんの心臓の音)
を聞く装置が付けられた。
どくんどくんと、元気な音が聞こえて来る。
いつもなら赤ちゃんが元気なことが確かめられ嬉しくなるのだが、
隣の患者さんが気になり、早く装置を外して欲しかった。
婦人科って残酷だなと、悲しくなった。
子供ができないと宣言されている隣で、赤ちゃんの心臓の音が聞こえる。
やっぱり転院しないとなあと、心から思った。
赤ちゃんはやはり、産科で見ていただくものだ。
S先生に今までの感謝を告げる。
「赤ちゃんをその胸に抱くまで、絶対に安心しちゃ駄目よ。」
いつも優しいS先生も、その言葉はきびしくおっしゃられた。
S先生とのご挨拶を終え、お世話になった看護婦さん、
事務の女性の方に挨拶を終えKK病院を出た。
さあ、いよいよ出産にむかって頑張ろう。
帰りのバスの中で、心を切り替えた。