天使と悪魔の記録

 

産まれた、その1

お産を終えてぐったり疲れていたが、興奮しているのか眠れない。
そのうちに、LDRから一般の病棟に移される。
「しばらく安静にしていてください。また、あとで今後の説明に来ます。」
助産婦さんは、そう言い残して病室を出ていった。
1時間経過。説明にこない。私はトイレに行きたい。
2時間経過。説明にこない。私はとってもトイレに行きたい。
3時間経過。説明にこない。私はとっても、とってもトイレに行きたい。
我慢できない…。あと、15秒でもれちゃうぞ…。少し不安だったが、背に腹は
代えられない。
恐る恐る歩いて、トイレに行く。いてえぞぉ…(;_;)。
何とか用を足して、ベッドに戻る。
その30分後に、助産婦さんが来た。
「お手洗どうしました?」
「先ほど行ってきました(怒)。」
「あら、大変!何の説明もしてなかったのに!」
(だって、忘れていたじゃん!私はあともう少しで、漏らすとこだったんだぞ!)
産後のお手洗いのあとは感染しやすいらしい…。消毒の仕方を習ったが、今更遅
いやね…。

教訓その一、助産婦さんが忘れていたら、遠慮せずにナースコールを押しましょう…。

夕方の時半頃、夫が病院へ戻った。
いきなり、病室にビデオカメラを廻しながら入ってきた。
「LDR行ったらさー、もういないんだもん。」
当たり前だろー!お産終えて、もう4時間も経ってるんだぞ!
夫はビデオを持ったまま、こなつのいる新生児室へ行った。
15分ほどで戻ったが、その間保育器で泣いているこなつをずっと撮影していたらしい…。
親だけが喜ぶだらだら撮り…。もう、すでに親ばかなのか…?

でも、保育器にいるこなつを夫は触ることができない。
あと、30分行くのがずれてたら、生まれてすぐに会えたのに…。返す返すも残
念だった。

次の日の早朝、保育器にいるこなつが心配で私は新生児室に行った。
こなつは、おむつ一つで、保育器の中で泣いていた。
新生児室の前は、いつも女性の患者さんでいっぱいだ。
それも比較的、年配の方が多い。
入院中の一つの楽しみなのか、産まれたばかりの赤ちゃんを眺めに来るらしい。

こなつの前にも、年配の患者さんが二人立っていた。
「みてー、この子!ほら、立派な胸してるわねえ!」
「ほんと!男の子らしくていいわね。がっちりしてる。」
…女の子なんですけど…。
ピンクの名札がついてるじゃないですか…。
うーん…、この時にやっぱり運命は決まっていたのか…?
私が隣で眺めていると、その患者さん達が、
「あまり立ちっぱなしは良くないのよ、心配しないで少し休みなさい。」
と、声をかけてくださった。
名残惜しかったが、忠告をありがたくいただいて病室に戻った。
はっ!女の子だって、訂正するのを忘れた!

その日の午後、やっとこなつを抱くことができた。
授乳。始めはなかなか出ない。
でも、一心に乳を含む我が子を見て、この時にやっと親になったんだなあと実感する。
何とも言えない幸福感。

しかしこの幸福感も長くは続かない…。
助産婦さんによる、恐怖の乳マッサージが待っていた…。
タオルで乳を包み、情け容赦なくマッサージされる。
い、いってぇえええええ!
お産よっか痛いんじゃないのかー!!!!!
「妊娠中にマッサージしなかったでしょう。」
にんまり笑う助産婦さん。
そう言えば、母親学級でなんか言われたような気がする…。
しかし、夏休みの宿題を終わり間際に徹夜でやってたような私が、
事前にそんなことやるわけなーい!
あぁ、ものぐさな性格がこんなとこでも裏目に出る…。
乳のマッサージは、痛いぞえ…(;_;)。

夫はこの日は仕事で来られず、こなつの触れることができたのは、生まれて3日目。
こわごわ足に触って一言、
「やっこいなあ(柔らかいなあ)。」
この時にぶわぁああっと、父性が目覚めたようだった。
子供嫌いの夫が、子煩悩に変わった瞬間であった。

母乳もなかなか出なかったが、この夜一晩夜泣きに付き合って
お乳を吸わせているうちに、たくさん出るようになった。

やれやれ、一安心。

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