天使と悪魔の記録

 

七五三

3歳の女の子を持つ親にとって、11月は大変だ。
まず、幼稚園の受験。
そして、次に控えるのはビックイベント七五三だ。

地域によっては数えでやるところもあるようだが、
我が家では3才の秋に行うことにした。
(こなつが2歳の時は、手が付けられないほど乱暴だったって言うのが、本当の
理由だけど。)

夏が終るころからどこで調べるのか、呉服屋さんのダイレクトメールがちらちら
届きはじめる。
新聞広告にもかわいらしく髪を結って、赤い着物を着てにっこり微笑む女の子の
顔が写っている。
女の子を産んだんだもんねー、こんなにかわいらしい着物を着せてあげたーい!

そのために髪の毛だって、伸ばしていたんだもん!

しかし…。

何度も書いているように、こなつは自分を女の子だとは思っていない。
このころはそれがさらに激しく、自分のことをオレと呼び勝手に「サトシ」という
名前まで自分に付けていた(;_;)。
スカートだって穿かないのに、しちめんど臭い着物なんか着るわけがない!

着物は7歳の時に託し、私たち夫婦は普通の服で(できればスカート)
お宮参りの時と同じ近所の氏神様にお参りするつもりでいた。

ところが何をトチ狂ったのか、階下に住む義母が
「呉服問屋さんに知り合いがいるから、もう着物頼んできたわよー。」
と、明るくノー天気にいいに来た。
私は一体何年、こなつのおばあちゃんやってるんだー!
着るわけないじゃん!
と叫びたかったがそれをぐっとこらえ、
「普通の服でやろうと思ってたんですけどね、3歳だし…、お金ないし。」
すると義母は
「もう頼んできたのよー・鹿の子のかわいいやつ!安かったし、お祝いにプレゼ
ントするわよ!」
とさらに明るく言い放った。
もうこれ以上なにも言えない…。嫁だし…。一緒に住んでるし…。波風たてたく
ないし…。

次の日、もうその着物は我が家に届いた。
開けてみると、なるほどかわいい!
赤い鹿の子も丸顔のこなつにはよく映えそうだし、
お襦袢の小さくてかわいいこと!足袋から、髪飾りまで一そろい全部入っている。
か、かわいーーーー!!!
私は何が何でもこなつにこの着物を着せたくなった。
「こなつちゃん、ちょっと着てみようよ!」
義母も嬉しそうだ。
こなつはされるがままに服を脱ぎ、次々と着物を着せられていった。
その間、無言。
でも、私は見ていた。こなつの右のまゆ毛が、怒りのために少しづつ上がり初め
ているのを…。
(もうちっと、辛抱してくれ…。)
心の中で祈りながら、でも少しわくわくしながら着付けを見ていた。
全部着せ終わり、頭にちょんとリボンを載せた。
「か、かわいいいいいいいいいいーーーーーーーー!」
義母と私が叫ぼうと思った瞬間、

こなつはバリバリと着物を脱ぎはじめた。いや、脱ぐというより、乱暴に剥いで
いく感じだ…。
あっけにとられている義母に、
「け!こんなもん着れっかよ!」
という捨て台詞を残し、何故か足袋だけはいたまま2階へ駆け上がっていった。

「け…?け?け?け?」
呪文のように唱える義母に
「ごめんなーさーい!」と叫び私もこなつの後を追った。
こなつは自分でタンスを開け、いつものズボンとシャツを出しさっさと着始めて
いた。
でも、足袋ははいている。
「なんで、足袋は脱がないの?」
「だって、木切るおっちゃん(植木屋さん)みたいでかっこいいじゃん!」

もう、ため息しか出ない…。
七五三まで後1ヶ月。
どうやって着せるか、こなつを産んで以来最大の難問に私は挑んだ。

(C) Copyright 2001 nachi All rights reserved. Update : 2002/09/25 Goto HOME