天使と悪魔の記録

 

5歳の海

下田の別荘から海までは坂道を下って、20分くらい。
こなつは水着姿で、浮輪を背負って嬉しそうに海へ向かう。
「たあちゃん、ここ階段なのに階段じゃないねえ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
「階段でしょう。」
海までは急な坂道。
「これは階段じゃなくて坂道だよ。」
「ぐーーーんってなってるねえ。」
急な坂だから走ととまらないのに、こなつは早く海につきたくてつい小走り。
私はこなつの手を引っ張りブレーキをかけながら行くのでかなり疲れる(;_;)。
海が見えてくるとこなつのスピードはまた上がる。

ようやく海へ到着。
こなつは準備体操もせずに海へ走っていく。
「ゴーライジャー、推参!!」
叫んで海へ向かう。
「たあちゃん、いくぞ!!」
…ものすごく勇ましいけど、腰に浮輪付けてるし。
しかも黄色いヒヨコだし…。
「それー!!ジャカンジャ覚悟!!とーー!!」
途端に波へ引きずられていく。
「たあちゃん!!」
頭までどっぷり浸かったこなつが叫ぶ。
「5歳の海は熱いぜ!!」
・・・・・・・・・・・・・え。
「5歳の海は熱いぜ!!」
・・・・・・・・・・・・・はい?(;_;)
君は、小林旭かよ!!(古ー)
その熱い海へ再び走り出すこなつ。
「キャップ!!」いきなり、指を2本額に当てて、きをつけのポーズ。
・・・・・・・・・・・・今度は、ウルトラマンコスモスか・・。
「たあちゃんもやって!(怒)
キャップ!!」
やだよ!(怒)
周りの人笑ってるし(;_;)。
少し休もうと、一度上がる。
「4歳の海はぬるかったなあ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・はい?(;_;)
もうすでに母の頭はついていけません(;_;)。

砂山を作ると、また腰に浮輪をぶら下げて海へ走り出すこなつ。
「たあちゃん、モンスターの野望を打ち崩せ!!」
・・・・・・・・・・・・・え。
とにかく、その大声やめろ!(怒)

8月の海はやかましい。
白浜には条例があるのか、海の家はない。
国道沿いに立っているお店が海の家のかわりにシャワーを貸していたり、
食べ物を売っていたりする。
そこのお店が一斉にアナウンスするもんだからほんとにやかましい。
こなつは「白浜観光」のアナウンスがすっかり気に入ったようだ。
そこのアナウンスが聞こえてくると、くすっと笑って照れたような顔になる。
「こちらは白浜観光でございます。
天然の温泉シャワーが利用できます。
お食事はおにぎり、焼きそばが350円でございます。
ビールはキリン生しぼりでございます。」
こなつはいちいち真似る。
「おにぎりでございます。温泉シャワーでございます。キリン生絞りでございます。」
ございますが気に入ったのか?
「温泉シャワーーでございます。」
砂山を作りながら呪文のように唱える。
CM料金もらえるな(笑)。

散々海で遊んだのにまだ遊びたいとごねるこなつを連れて、今度は山道を登る。
海で疲れているうえに急な山道なので、
途中で歩かなくならないようにアイスを与えて登る。
途中、色々な虫に出会える。
一番多く見かけるのが黒いアゲハ。
「くろはげーー!!」ここではほとんど人に出会わないので、叫んでも安心。
「たあちゃん、こなつはチョウチョが好きじゃないの。」
「なんで?」
「粉がつくから。」
鱗粉ね。たあちゃんも好きじゃない。
トカゲや蛇も出てくる。
こなつは夢中になって追いかけるので、帰りは更に時間がかかる。
家の前でホースでこなつに水をかけてお砂を落とす。
ここで必ずこなつはおしっこをする。
海ではしないんだな、良かった(笑)。
その後お風呂でシャワーを浴びて、こなつはそのままバタンキュー。
こなつとゆっくり夕方までお昼ね。
あぁ、しあわせ。(笑)

次の日からこなつがぼやき始める。
「たあちゃん、何でここに海がないの?」
そんなこと言ったってなあ。
「海は動けないもん、こなつが行くよりないじゃん。」
「ここに海があって欲しい!!」
無理だっての。
「海から海まで歩けばいいじゃん。(怒)」
海があったら歩かなくていいだろうが…。
それでも海で遊びたいがためによく歩く(笑)。

ヒヨコの浮輪をもって走りがすこなつを追いかけ、砂山を作り、
「温泉シャワーでございます。」
を、唱えつつ毎日海で遊んだ。

毎日海で遊べるなんて幸せだな。
熱い5歳の海は5日間続いたのでした。

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