雑文林

 

出会い

ちことの出会いは、1995年10月10日の深夜。
その日、夫が飲み会から帰ってくるなり、
「ねえ、小猫がいるよ。」
と、大事件のように駆け込んできた。
「下で、ゴミ探ってるからそーっと見てごらん。」
私はパジャマのまま急いで下に降り、ゴミ集積場を見てみると、
小さな小さな雉トラの小猫がゴミの袋をぴちゃぴちゃ舐めている。
(ひゃー、かわいいいいいいいいい!)
私がそーっとちかずくと、気配に小猫は身構えた。
逃げるでもなく、小さな身体を精一杯膨らませて
「フーーーーーー!」
と、生意気にも威嚇している。
私は何だか嬉しくなった。こんなに小さいのに、なんてしっかりした子だろう!

「恐くないから、おいで。」
と、精一杯の猫なで声で呼んだが警戒を解かない。
まだ、2ヶ月ちょっと。親離れのできていない頃なのに、一体どこから来たんだろう。
ふっと、私の頭をよぎったのはその年の1月14日に死んだラムのことだ。
ラムは夫の子供の頃から飼っていたネコで、18年の長寿を全うしたばかり。
ラムは新入りの嫁の私にたいそう懐き、亡くなったのも私の腕の中だった。
ラムも雉トラ。ひょっとして、ラムが帰ってきたんだろうか。
私は急いで家に戻り、小猫の好きそうな食べ物を用意した。
小猫の前にそっとおくと、施しは受けないとでも言うように走り去ってしまった。
その日から我が家では、その小猫の話で持ち切り。
夫の両親も、夫も大の猫好き。
でも、ラムを亡くしたばかりの私たちはどうしても、
もう一度猫を飼う気にはなれなかった。
見つけたら保護して誰かもらってくれる方を探そう、そう意見は一致した。

しかし…。

夫の両親は密かに、私たちを裏切っていた。
庭に餌を置き、気がついたらすっかり手なずけていたのだ。
でも、大したもので食べ物はもらいに来るが決して身体は障らせない。
なかなか、肝の据わった猫だ。
きっと雄だねえと話していたのだが、ある日義母がさっと捕まえて裏返すと何と
女の子だった。
両親は早速
「ちび猫で、女の子だからちびこ。」
と、あまりにも安易な名前を付けた。
でも、女の子なら外で飼うのはちょっと困る。
小猫が生まれても、不幸な子を増やすだけだし、雄猫もよってくる。
どうしようと言ってる間に年を越してしまい、ちびこは成猫に近づきつつある。

その頃はすっかり私たちにも懐き、ひざの上にも乗ってくるようになっていた。

かわいいけど、私たちにも子供ができるかもしれない。やっぱり、飼えない…。

そろそろ、雄猫が近づき初めていた。この辺の外猫は80%くらいが猫エイズに
感染している。
私たちは、新しい飼い主を探すべく、ちびこを懇意にしている獣医さんに預けた。
そこの獣医さんは小猫の里親探しの名人で、今まで一週間以上猫を預かったこと
がない。
一日千円の預かり料で、里親を探してくださることになった。

ところが、一週間経っても三週間経っても何故か希望者が現れない。
ポスターもあちこちに貼った。
「こんなことは初めてだなあ…。」と、獣医さんも首をかしげた。
そのうちに、ケージに閉じこめれているストレスからかちびこが暴れるようにな
った。
あれほど、けなげだったちびこの性格がねじ曲がってきている。すぐに、怒って
噛む、ひっかく。
これは、あんまりかわいそうだ。
その話を義母にすると、
「もう、引き取ろう、かわいそうだよ。」
と、言い始めた。
義父はラムにこだわり飼うことに反対していたので、
2階の私たちの部屋で飼うことが義母との間に決まり、
1997年3月21日、我が家へ引き取った。

ケージに閉じこめられていたために、少し根性が曲がって目つきがかなり悪くな
っている。
でも、毎日獣医さんに会いに行っていただけあって私にだけななんとか身体を触
らせる。
私にたいして後ろ向きに座り、仕方なさそうに我が身を触らせている。
私たちの勝手で、ひどい目に遭わせてしまった。
私はちびこの後頭部をそっとなでながら、少しづつささくれた心を癒していこう
と思った。

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