雑文林

 

引っ越しのこと

この秋に、生まれたときからずっと住んでいた世田谷を離れた。
理由を簡単に言えば、家庭第一の生活をするため。
仕事の都合で、私とこなつはずっと母子家庭状態だった。
私はそれになれていたし、
こなつもそういう生活しかしていなかったので、
何も不満を漏らさなかった。

でも幼稚園に通いだすと、
こなつは自分の家が普通の家庭と違うことに気がつき始めた。

何で、お休みの日にお父さんがいないんだろう。
何で、夕飯のときお父さんがいないんだろう。

「Aちゃんは昨日、みんなで遊園地に行ったって。」
こなつの口からそういう言葉が、だんだん多くなってきた。
私も悩み始めた。
「こなつのお家はみんなのお家と違うんだから
仕方がないんだよ。」
そう言うのは簡単。
でも、こなつにそれを理解させるのは難しい。
私も、一人でこなつを育てるに限界も感じていた。
普通の家庭にするには、地方へ行くことしか選択がなかった。

世田谷には愛着があった。
住所が渋谷区になるのがいやで、
引っ越ししなかったことさえある。
それに、たくさんの友人と離れることも心底辛い。
そして、仕事を辞めることも悲しかった。
18歳からずっとこの仕事を続けてきて、
信用と実績をこつこつと積み上げてきた。
その結果幸せなことにフリーになって営業しなくても、
いつも仕事がもらえるようになった。
その仕事もできなくなる。

知らない土地への不安。
こなつの転園。
ちこと離れること。
収入が減ること。
悩むことはたくさんあった。

でも、私にとって一番大事なのは家庭だった。
そして、夫といる時間がもっと欲しい。
3人でのんびり暮らしたい。

引っ越しして一ヶ月。
こなつはすっかり新しい幼稚園になじんだ。
毎晩3人で食べる夕食。
毎週おやすみには夫がいる。
相変わらず私には親しい友人もできないが、
当たり前の家庭生活を心の底から幸せに感じている。



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